映画のような漫画
今日紹介するのは「ペコロスの母に会いに行く」岡野雄一著というエッセイマンガです。
故郷、長崎に帰ってきた漫画家の禿げたおじさんが、認知症の母との暮らしを描いています。
ちなみにペコロスとは、小さなタマネギのこと。
禿げたおじさんの愛称です。笑
可愛らしいイラストで描かれた、笑えるエッセイマンガなのですが、
その内容はすごい重量感あり!
読み終わるとまるで1本の映画を観たような満足感があります!
(実際、2013年に映画化されています)
まるで自分で経験してきたかのように母親の人生や、認知症になってから見えているものを描いているのもすごい!と思いますが、
お酒を飲んで暴れたお父さんや、認知症のお母さんの困った行動に対しても、まったく恨みや憎しみや怒りがなく、すごくあっさりと描かれているのが印象的でした。
もし私が当事者だったら、イライラしたり、悲しくなったり、こんなに苦労したんだから!って言いたくなってしまうと思うのですが、そういうのが全然なく、すごくニュートラルに、明るくコミカルに表現されているんですよねー。
あぁーお母さんのこと、すごく好きだったんだなぁと、作者の親への気持ちみたいなものが自然に感じられました。
誤解を恐れずに言うと、これって男性だからできたことじゃないかなーと思うのです。
なんていうか…女性だともっと感情移入しちゃうと思うんですよね。
それで客観的にとらえられなくなりそう(私だったら絶対そう)
こういうのって、男性だからこそ、良く言えば客観的、悪く言えばどこか他人事として捉えられてるんじゃないかなーと感じました。
過去と現在が混じり合う
ボケてどんどん可愛らしく、そして憎めなくなっていく母親。
長崎弁がこれまた可愛い♪
10人兄弟の長女として子守をさせられていた幼少期、お酒を飲んではトラブルを起こす旦那さんに困らされながらも、2人の息子を育てる子育て期。
そして、ふっと戻ってくる現代と、お母さんは様々な時代を行き来しています。
認知症の人の話を聞くと、女性の多くは「お腹を空かした子どもが待ってるから早く家に帰らなきゃ!」といって徘徊をしているよう。
こういうのを知ると、子育て真っただ中の今の自分は、まさに「人生の黄金期」にいるんだなーと実感します。
誰かの世話をするって大変だけど、それだけで人に求められている喜び、充実感に満ちているんだなーと。
それと同時に感じるのが、子どもを育てていると、離乳食(流動食)をあげたり、オムツを替えたりと、介護と重なる部分が多くあるのですが、
一番の違いは、子育ては「自分でできることが増える」のに対して、介護は「減る」こと。
それって当事者も周りも心底辛いだろうなーと離乳食をあげながら、しみじみ思うのです。
でも「ペコロスの母」を読むと、認知症になるってのも悪くないなと思えるから不思議です。
責任とか、悲しい記憶とか、人生の重荷をどんどん降ろして、身軽になっていく母。
認知症も悪いことばかりじゃないんだなと気付かされます。
病気にも「救い」が、介護にも「喜び」があるんだなーと知りました。
大事なのは、生活の中のちょっとしたことを楽しむこと。
作者のペコロス(岡野)さんは、それがとっても上手だなーと思うのです。
生きるせつなさ
お父さんの酒癖の悪さや、幻聴は、戦争の辛い体験から来ているようでした。
妻のお母さんもそうですが、作者の岡野さん自身もそれによって辛かったり、イヤな思いをしていると思うのですが、それに対する恨み節は感じられません。
認知症になったお母さんの背中には、原爆でなくなった長女のヒロコさんがいます。
岡野さんの姉にあたる赤ちゃんです。
お母さんは赤ちゃんを起こさないようにそっと横になって眠るのです。
人生にはどうしようなく悲しくて、目をそむけたくなる現実があります。
でも、それに対して憎しみを抱き続けたり、恨み節をたたいてもしょうがないのです。
ただ現実を受け入れて、毎日を粛々と生きていくしかないのです。
どんな人生にも物語がある。みんな必死に生きてきて、その結果が今。
ただそれだけ。
そういう当たり前で、せつない現実に気付かされるとても良い本なのでした。
ぜひ読んでみてください!
映画もすっごく良かった!
原作の雰囲気そのままです~♪
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